妊活コラム
Ninkatsu Column
「養生訓」から学ぶ妊活 Vol.2
桂川レディースクリニック こうのとり鍼灸担当の船越です。
前回の僕の担当コラムでは、江戸時代に書かれた「養生訓」をもとに
妊活生活の基礎をご紹介しました。
- 前回のコラム 「養生訓」から学ぶ妊活
「養生訓」は、本草学者(薬草などを用いる「薬学者」)で
儒学者でもある「貝原益軒」が書いた本で、
この方は平均寿命が40歳程だった江戸時代に84歳まで生きたご長寿さんです。
この本には健康で長生きのための方法が書かれていますが、
「身体の健康」だけでなく「心の健康」についてまで書かれているのが特徴です。
300年以上前に書かれたものですが、
現代の我々にもじゅうぶん活かせる内容ですので参考にしてみましょう。
生を養う道は、「元気」を保つことが根本である。
「元気」を保つ方法にはふたつある。
まず「元気」を害するものを取り去ること。
それと「元気」を養うことである。
このことは、例えば田を作るのと同じである。
まず、苗を害する雑草を去り、そののちに苗に水を注ぎ、肥料をやって養う。
養生も同じである。
まず、害を去ってのち、よく養うことである。
害が多ければ養うことは出来ない。
身体にとって「害」になっていることは何でしょうか?
栄養の偏った食事? 運動不足? 精神的ストレス? 睡眠不足?
まずは「害」となっているものを減らし、身体を養ってあげましょう。
気と血について
「養生訓」の中には「気」、「血」という言葉出てきますが、
下記のような意味だと思っておいてください。
「気」
①気体としての「気」 物質的には酸素、二酸化炭素
②メンタリティとしての「気」 気分、
元気などのイメージ 転じて「自律神経のバランス」
「血」
①液体としての「血」 血液とその中を流れる栄養、老廃物
②血液が運ぶ「熱」、「エネルギー」
「養生訓」の中には「気血を巡らせる」というフレーズが何度も出てきます。
つまり、
- 酸素をしっかり取り入れて、不要な二酸化炭素をしっかりと外に出すこと
- 血液が全身をくまなく循環し、脳や臓器が適切な温度を保つこと
(温めれば良いということではない) - 気持ちの浮き沈みがあっても停滞させず、心の「陰陽」のバランスを取ること
(交感神経と副交感神経のバランスを取る)
…ということが重要だと書いてあるんですが、
逆の見方をすれば「普通の生活ではそれが出来ていない人が多い」
ということかもしれません。
普通の生活では「呼吸が浅い」、「血行が悪い」、
「精神的ストレスで心が乱されている」ということですね。
こうのとり鍼灸に来られる方の中にも「自律神経のバランスが崩れている」、
「血行が悪い」という状態の方がいらっしゃいます。
養生訓的に言えば「気血の巡りが悪い状態」と言えます。
- 呼吸が浅いため、酸素と二酸化炭素の交換がうまく行かず代謝が悪くなっている。
- 精神的ストレスが溜まり、脳がオーバーヒート気味で頭に熱が溜まる。
(そのことで卵巣、子宮が冷える) - 全身血流が悪く代謝が落ちて、受精、着床に必要な体温が保てない。
このような状態ではうまくいかないかもしれません。
気血の巡りを良くするためには?
養生訓に書かれている「気血の巡りを良くする方法」をご紹介しておきます。
●身体を動かすこと
養生の術は、のんきに平穏に過ごすことを第一に考えているわけではない。
心は静かにして、身は動かすことが正しいのである。
身を動かさないと「元気」が滞ってふさがり、病を生じることになる。
これは、『流水は腐らず、戸ぼそ(※1)は錆びず』ということである。
(※1 戸ぼそ…開き戸の蝶番のこと)
もしかすると、現代人は逆の人が多いのかもしれません。
「ストレスで心は乱され、時間が無いので運動不足」というパターン。
流れが悪い川の水は腐りやすく、
動かしていない扉の蝶番は錆びついてしまいます。
養生の術は、身体を動かし気を巡らせるのが良い。
横になっているのを好み、身体を動かさないのは、はなはだ害がある。
長時間坐って身体を動かさなければ「気」は巡らず、
食べた物の消化吸収も滞って病気になる。
身体は日々、少しずつ動かすべきである。長時間座っていてはいけない。
毎日、食後には必ず庭や田畑の中を数百歩静かに歩きなさい。
雨の日は、室内を何十回もゆっくりと歩きなさい。
このように朝晩運動をすれば「気血」は滞ることなく、病気にかからない。
「運動不足」を戒めている部分です。
現代人はデスクワーク中心で座っていることが多く、
運動不足になりがちです。
身体を動かし、軽く汗をかくことでストレスも解消できて
体温も上げることが出来ます。
「ウォーキングすると、脳の大脳辺縁系偏桃体(ストレスを感じる部位)の
過剰興奮が鎮静され、自律神経のバランスが整いやすくなる。」
という研究発表もあります。
●呼吸はゆっくりと
つねに鼻より清い気を引き入れ、口より濁った気を吐き出す。
出す時には口を細く開け、少しずつ吐くことである。
呼吸はつねにゆるやかにして、深く「臍下丹田」に入るようにする。
呼吸を荒くしてはならない。
荒くすると気が乱れ、身も心も乱れる。
ゆっくりと息を整えることで心身が安定する。
臍(へそ)の下三寸のところを丹田(たんでん)という。
腎間の動気がここにある。
腎間の動気が、人の生命のもとになる。
「気」を養う術は、次のようにする。つねに腰を正しくすえ、
「気」を丹田に集中し、呼吸を静かに、荒くせず、
事にあたっては胸中から少しずつ何回かに分けて空気を口へ吐き出す。
胸中に「気」を集めず、丹田に「気」を集める。
このようにすれば「気」は昇らないので胸も騒がず、
身体に力が湧くのである。
丹田: おへその真下、おへそと恥骨のあいだ、上から五分の三のところ。
腎間の動気: 気は東洋医学でいうエネルギーのこと。
腎は生殖活動、生命活動を担う臓器と考えられ、
腎間の動気を養うことが「生命」を生み出すと考えられています。
患者さんの身体をみせていただいていると、
「呼吸が浅く、回数が多い(速い)」という方がいらっしゃいます。
「養生訓」の見かたで言えば「気が乱れている状態」です。
こういう場合には、ゆっくりと腹式呼吸することで脳にフィードバックがかかり、
心を落ち着ける脳内物質「セロトニン」が分泌されることが知られています。
●歌う、踊る
古人は詠歌・舞踏して「気血」を養った。
詠歌とはうたう事、舞踏とは手を舞い足を踏むことである。
これらは心を和らげ、「気血」を巡らせて身体と心を養う養生法である。
カラオケで歌うとストレス解消になるという方も多いのではないでしょうか?
「歌う」という行動は、「息を吸って吐く」ということの繰り返しです。
上述の脳内物質「セロトニン」は、リズミカルな運動や呼吸で
分泌が促されることが分かっています。
ですから、歌いながら踊るとさらに効果的ですね。
さて、いかがでしょうか?
参考に出来ることはありましたか?
「害を去り、よく養う」と言うのは簡単ですが、
実行するのは難しいかもしれません。
それでも「気血」は巡らせるようにしておかないと、
身体も心も整った状態が保てないかもしれません。
「気血の巡りが悪いかな?」と気になる方は、
こうのとり鍼灸にご相談に来ていただければと思います。
最後に養生訓からの一節です。
からだは動かし、休ませ過ぎてはいけない。
心は楽しみ、苦しめてはいけない。