こんにちは、桂川レディースクリニック 院長・生殖医療専門医の桂川浩です。

当院では、2021年1月より、体外受精を行う全ての方に
『タイムラプスインキュベーター』を導入しました。
今回は、受精卵にかかるストレスを最小限にすることができる
『タイムラプスインキュベーター』について、わかりやすくお話します。

自然妊娠では、「女性の体内」の「卵管液」の中で
卵子と精子は出会い受精します。
受精した卵（受精卵）は、卵管内で分割を繰り返しながら移動して、
子宮内膜にたどり着くころには、胚盤胞まで成長します。

体外受精は「女性の体内」で起きることを、体外で行う技術です。
通常なら、「女性の体内」から外に出て、
生きることができない受精卵にとって、「女性の体内」は居心地の良い場所です。
ですから、できるだけ「体内」の環境に近づけて、
受精卵に与えるストレスを最小限に抑えることが要になってきます。

体外で「卵管液」の代わりになるのが「培養液」、
そして体外で「女性の体内」の代わりになるのが「インキュベーター」になります。

「体内環境」に近づけるために、
インキュベーター内の環境は（温度37℃、二酸化炭素濃度5-6%、酸素濃度5%）を
保っています。
私たちが生活している環境（温度変動、二酸化炭素濃度0.03％、酸素濃度21％）と
大きな違いがあります。

おわかりかと思いますが、一旦、インキュベーターの扉を開くと、
外の空気が流れ込み、体内と似た環境は一瞬にして体外の環境に
置き換わってしまいます。
インキュベーターの中の受精卵は体外に放置された状態と
同じになってしまうのです。
イメージとしては、冷蔵庫の扉を開けると、外の空気が流れ込みますよね。
皆さんもできるだけ扉を開けている時間を短くするように意識されていませんか？

インキュベーターも、受精卵のストレスを無くすには、
できるだけ扉を開けないことです。
しかし、必要不可欠なのが受精卵の観察です。
インキュベーターの外に受精卵を取り出して顕微鏡下で見る必要があります。
この時間を最小限に抑えても、やはりダメージを与えてしまいます。

当院が導入したタイムラプスインキュベーターの中には、
顕微鏡を組み込んだカメラが内蔵されているので、
受精卵をインキュベーターの外に取り出すことなく、
撮影された顕微鏡写真を通して受精卵の観察を行うことができます。
タイムラプスインキュベーターを用いることで、
受精卵を外に取り出す回数を減らせ、受精卵の発育が改善されたとする研究結果が
多く出されています。

それだけではなく、撮影した写真を繋ぎ合わせて
パラパラ漫画のように見ることで、
従来の一点のみでの定点観察ではなく、
動画による連続観察を行えるようになりました。
それにより、これまでに見えていなかった多くの情報を得ることが
できるようになりました。
当院では、この連続観察により得られた情報を基に、
より妊娠する可能性の高い受精卵の選別ができると考えています。

桂川レディースクリニックは、よりいっそう研鑽を積んで、
患者さまと心一つに歩んでまいります。
これからもどうぞよろしくお願いします。