妊活コラム
Ninkatsu Column
妊活と腸活 その③
桂川レディースクリニック こうのとり鍼灸担当の船越です。
「妊活と腸活シリーズ」の第3回目です。
「妊活」に腸の状態を整える「腸活」が必要な理由として
- 腸の状態が悪くなると「悪玉菌」が増え、免疫が過度に働くようになる。
- 腸内環境が崩れると、「自律神経」が乱れたり「セロトニン産生能力」が低下して、メンタルが乱れやすくなる。
…ということをご紹介してきました。
今回は「粘液」をテーマに、「東洋医学的腸活」をご紹介していきます。
まず、腸の状態をご自身で把握するには「便の状態」が最も簡単です。
下図は、便の状態を判別する「ブリストルスケール」と言われるものです。
便の性状や色は胃腸の状態を反映していますので、
消化器系疾患の診断などに用いられています。
Type1~2 : 便の腸内停滞時間が長く続いた状態で硬くなっており、
便秘と判断されます。
Type3~5 : 正常便、特に「4」が理想便です。
Type6~7 : 腸壁の炎症などで便の水分吸収が出来ないため軟らかくなりすぎて、
下痢と判断されます。
(※ 便の硬さだけでなく、便の量や色、においの観察も大切ですが、今回は省略)
理想的な便(Type4)であれば、便には適度な水分が含まれ、
表面は「粘液」でコーティングされています。
正常な腸壁粘膜も粘液でコーティングされていますから両者の摩擦が少なく、
いきむことなくスルッと排便出来るワケです。
Type6~7のように、便が軟らかすぎたり水様の便が出る場合腸壁の
炎症が考えられますが、胃腸の負担の少ない食事や整腸剤で落ち着くものであれば
一時的なものでしょうからあまり心配は要らないと思います。
しかし、水分や粘液が少なくなると硬くなったものは便と腸壁、
肛門との摩擦も大きくなりますから通過が悪く、痔にもなりやすくなります。
日常的に便の「粘液不足」、
「水分不足」でType1~2のような方は「腸内環境の改善」が必要だと思います。
≪予備知識①≫
「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では、
便秘とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」とされていて、「〇日以上排便が無い状態」とは定義されていません。
ですが、食事をしてから便として排泄に至るまで
約24〜72時間(1〜3日間)かかります。
そのため、3日以上排便が無ければ腸内で内容物が停滞している状態と考えられます。
≪予備知識②≫
身体には各所に粘膜があり、そこから「粘液」が分泌されています。
「粘液」は粘膜表面を覆って潤いを保ちながら乾燥を防いだり、
内容物との摩擦を減らして輸送しやすい状態を作ったり、
異物の侵入を防いだり損傷部の修復を促したりしてくれています。
東洋医学では、体内の血液以外の水を含んだ成分を
「津液(しんえき)」と呼びます。
「津液」の主な作用は「潤いを与えること」であり、
さらに「津」と「液」に分けられ、その性質、分布、作用も異なっています。
津は、清く希薄なものをいい、分布は広範囲で、皮膚体表などを滋潤させます。
液は、津に比べると粘稠で、臓腑を滋養し、
関節運動を円滑にさせていると考えています。
ただし、これらは明確に分けられるものではなく、
互いにつながりを持ち、 機能的にも連携して働くので、
併せて「津液」として呼んでいます。
東洋医学で「津液」は、
食べ物の中に含まれるエネルギー(「水穀すいこくの気」と呼びます)から
五臓六腑のうちの「脾(ひ)臓」の働きで作られていると考えています。
作られた「津液」は「肺」に送られてから循環して全身を潤し、
その後は「腎」の働きで尿として排出されます。
「津液」は、具体的には唾液、胃液、涙、汗、各種粘液などを指しますが、
「脾臓」の働きが悪くなればこれらの分泌に異常がみられるようになります。
例えば前述のように、腸に炎症などがあって粘液が増えた場合は
下痢として現れますし、少ない場合は便が停滞して便秘として現れます。
関節の津液が不足すれば動きが悪くなり、ギシギシ動いて痛みが出やすくなります。そのような状態が続くと今度は軟骨を傷めて炎症を起こし、
ひどい場合は関節に水が溜まるようになります。
その他にも、目の津液が不足すればドライアイ、
皮膚の津液が不足すれば乾燥肌、鼻やのどが乾燥して痛めやすいなど、
津液のバランス異常から様々な症状がみられるようになります。
(妊活の分野でいえば、頚管や卵管粘液の異常や内膜の異常などは
東洋医学的には「津液」のバランスの崩れと捉えます)
「津液バランス」のセルフチェック
下図は腹部の「経穴(ツボのこと)」の例です。
「津液」のバランスが崩れていたり「脾臓」に不調があると、
これらの経穴に圧痛や張りなどの反応がみられるようになります。
鍼灸治療の際には、胃腸や子宮、卵巣の状態の確認のための「腹診」と
合わせてこれらの経穴の反応を診るのですが、
ご自身でもチェックできると思いますので参考になさってください。
中脘(ちゅうかん)おへそとみぞおちを結ぶ縦線上で、
おへそから指を4本分そろえて上に当てたところ。
気海(きかい)おへそとみぞおちを結ぶ縦線上で、
おへそから親指の幅1.5本分下に当てたところ。
水分(すいぶん)おへそとみぞおちを結ぶ縦線上で、
おへそから親指の幅1本分上に当てたところ。
盲兪(こうゆ)おへその左右横指1本分離れたところ。
大巨(だいこ) おへそから指2~3本分外側に離れ、
さらに指2~3本分下がったところ。
関元(かんげん) おへそとみぞおちを結ぶ縦線上で、
おへそから指を4本分そろえて下に当てたところ。
便が硬く便秘気味で、上記の経穴に圧痛や張り感がみられるのであれば、
津液に不調がある可能性が高いです。
津液の不調が認められるのであれば、
まずは「栄養のバランス」を考えてみましょう。
津液は食べ物の中に含まれる「気」から作られます。
栄養バランスが崩れていると「良い津液」は作られません。
「津液」を補う食材
腸内環境を整え、しかも正常な津液(粘液)を分泌させて
「表面が粘液でコーティングされた理想的な便」のために、
バランスの良い食事を心がけましょう。
薬膳としては、豆乳、豆腐などの大豆製品、豚・鶏肉、白キクラゲ、
ハマグリ、アワビ、レンコン、ピーマン、ヤマイモ、
トマト、レモン、ナシなどは津液を補う食材の代表例です。
その他、メカブやもずくなどの海藻類や、
滋養に良い発酵食品である納豆などがおススメです。
津液と不妊
頚管や卵管の粘液が不足したり粘性が高まった状態では
精子の通過が悪くなると考えられます。
このような状態は東洋医学では「津液不足」として津液を補う治療を
組み立てますが、卵管が狭くなったり詰まったりして、
卵子や精子が卵管を通ることができない「卵管性不妊症」の場合は
津液を補う治療だけでは効果が出にくいです。
このような場合は「卵管鏡下卵管形成術(FT)」が適応と考えますので、
クリニックにご相談ください。
下記リンクを参考に。